鉄砲から宇宙を考える島

FDA フジドリームエアラインズの10号機となる晴天の霹靂号を降り立った我々は、すぐさま火縄銃の歓迎を受けることとなった。時々、ローカルニュースで見かける火縄銃の演武は、ちょっとしたパフォーマンスだろうと思っていたのだが、その迫力は想像以上だった。テレビを通してでは決して体感できない迫力があるんだとすれば、それは立派な観光資源だ。今ここに動画を張り付け、それを見てもらったとしても体感することにはかなわない、と言うか生で見た方が絶対に良い。我々ツアー客のオーという歓声がそんな真新しい体験を表現している。日本前装銃射撃連盟のHPには火縄銃オリジナル部門としてタネガシマ(立射)が紹介されているけれども、まさに種子島でタネガシマが演舞されたってことにもなる。
 
ものすごい量の収蔵品
2000mの滑走路を持つ種子島空港から向かったのは北部の鉄砲館。ここでさらに火縄銃の理解を深めるわけだ。日本の火縄銃だけでも相当な数が展示されていたのだけれども、海外のものもあって理解が深まるようになっている。この手作り感満載の博物館で特筆すべきは、触れること、持てることだと思う。多くの博物館は「触るな」となっているけど、実感できるのは強み。だからこそ、ここで火縄銃の実演が定期的に行われたら、さらに効果的だと思うんだな。しかも定期的に用いる火縄銃を変えてもらえるなら、また行ってみたいと思う。火縄銃の本家には、ぜひとも口火を切ってほしいものだ。
 
言われはそれぞれの土地による
ところで今日は雨。鉄砲館から南へ向かう国道は海沿いを走って、サンセットライン種子島を通過する。本来であれば、ここで夕日を堪能するはずだったけれどもかなわぬ望み。きっと、そう遠くないところに屋久島が見えたはずだけれども、視界に入るのは境界が不明瞭な海と雲だけだった。そういえば種子島は解放感にあふれる。高層ビルも山もない茨城県のようなイメージで、圧迫感がまったくない。その隣に毎日雨を降らせる屋久島がそびえるというのは、どうしてなのだろうか。「もう少しバスを走らせると」と書くとまるでドライバーになった気分だけれども、雄龍・雌龍の岩まではそう遠くない。どうしてこうも海岸近くの岩二つを夫婦岩にしたいものかと思うけれども、日本中に見られる観光スポットは駐車場とトイレが完備されているので、ドライブの休憩として立ち寄るのもよいかと思う。
 
岩の向こうはすぐにJAXA
宿泊は種子島いわさきコスモリゾート。太平洋の荒波をまともに受けるシーサイドホテルだ。この島にはサーファーが移り住むことが多いと言われるくらいだから、良い波ができるわけだ。だからこそ、波音も大きい。リゾートホテルというカテゴリなので地元色を感じるポイントはまったくないのだが、この波音を感じることこそが観光客が種子島に来たってことにもなるのだと思う。波の音ってこんなに大きいんだと思ったのは、高校の最寄り駅に降り立った時以来だ。
 
深く沈み込む砂浜
日が昇って明るくなった砂浜を歩いてみると不思議な感覚に驚いた。ホテルのフロントで借りたビーチサンダルが砂浜に沈み込む。その深さが、今まで体感したものよりも深い。霜柱に覆われた畑道を歩いているような感覚。「なぜでしょうね」と聞く相手がいなかったのが残念だ。
 
 
水の浸食力は大きい
この砂浜には小川が流れ込んでいる。その強くもなく、弱くもない流れが、徐々に砂浜を削っていく。水の道が連続的に変化していく様を目の当たりにして水の浸食力って大きいなぁと実感しつつ、これで地盤が隆起すれば河岸段丘ができるわけだと一人で合点する。その小川に黒い筋が見える。目を凝らすと、それは粒子が連続して流れているとわかる。きっとこれは砂鉄だ。砂鉄が列をなして海に流れている。種子島では長きにわたって砂鉄採取をしていたという事実をこんなところで理解できるとは。その砂鉄を起点とする製鉄技術を活かしていた種子島ポルトガル人が漂着したことで、日本の鉄砲文化が広まるわけだが、漂着先が屋久島だったら歴史はどうなっていたのだろうか。製鉄技術を持っていたからこそ、真似して作ってみようという着想に至ったはずで、その技術がなければ見向きもされなかったかもしれない。
そう言えば鉄砲館にはちょっとだけ砂鉄コーナーがあった気がしたが、しっかり見てこなかった。砂鉄ミュージアムを併設して、砂鉄から鉄の塊を取り出すデモンストレーションもあったら面白いと思う。火縄銃の演武とセットで定期的に実施されたらきっと見に行くよ。
 
ロケットの大きさを体感(対ガイド比)
今日一番の目的地はJAXAだ。そのJAXAは見どころがいっぱいあって書ききれない。ロケットガレージではH-Ⅱロケットの実物を見ることができて、ロケット本体の大きさに対照的なエンジン回りの配管の小さいことに驚いてみたりする。ロケット重量の9割は燃料なのだとか。その燃料を覆っている断熱材はものすごく軽い。ロケットにどんな技術が使われているのか、そしてなんでここに本物のロケットが保管されているのかを知れば、また宇宙への好奇心が強くなると思う。
 
エンジンは繊細に見える
ここJAXAはガイドツアーを予約して見学すべきだが、最後には宇宙科学技術館に立ち寄って、得られた知識を立体的に組み立てていくのが楽しい。様々な展示物のほか、音響体験室があってロケット発射時の音を体感できる仕組みとなっている。ロケットの発射音は耳の能力を超えるとのことだが、そのはるかに小さい音での体験なので、あまり臨場感がないのが残念であった。今どきの映画館のように7.1チャンネルで聞けるようにしたら面白そうだ。エンジンテストの音や大気圏突入開始からの音の変化など、様々な音源があればさらに興味がわきそうだ。
お土産ショップは目移りしてしまう。JAXAと書かれたTシャツやピンバッジなどは普通だが、ガチャガチャまで用意しているところを見るとかなり商売が上手そうだ。ここで上手に飛ぶ紙飛行機を買ってきたのだが、せっかくなので、H-Ⅱロケットの屋外展示場あたりで飛ばせたら良かったな。実際よく飛んだのだが、帰宅してから作るよりもよぽど思い出に残ると思う。
 
太平洋の荒波に削られる岩々
種子島は離島。言うまでもなく海に囲まれているので海岸だらけだ。浜田海岸もそんなありふれた海岸の一つだが、緩やかに弧を描いた幅広で奥行きの大きい気持ちの良い場所だ。そのだだっ広い砂浜の端っこには、唐突に岩が現れる。そしてその岩は荒波によって浸食され、やがて内部に空洞ができるに至った。中には千人も座れるということから、千座(ちくら)の岩屋と言われる。内部は光が乏しく、視界がモノトーンに変化する。そんな暗闇の中で波の満ち引きを体感できるというのも良いものだし、単純に海でたわむれること自体が童心に返るようで楽しい。ここは干潮時しか入れないようなので、干満の事前チェックは必須。
 
プレーン味がおススメです
もう間もなくこの島を発たねばならないというタイミングでトンミー市場へ。ここは地元住民向けの様だが、様々な品がそろっているので観光客として行っても問題ない。サツマイモは品数豊富で価格も安い。これなら観光客向けに箱売り、宅急便発送しても良いと思えるレベルだ。さまざまな味の羊羹もあってマンゴー味なんていうのは南国ならではのイメージだが、そもそも羊羹はどこにでもあるのだなと実感。一番おいしかったのはドーナッツ。見た目はフツーなんだけど、バームクーヘンのような上品な食感。もっと買ってくればよかったと後悔したくらいだ。
あと地元雑誌のISLAND GRAPHICがバックナンバーから揃っていたのは頼もしい。こういう文化的なものが作るって大切なことだと思うんだよね。それも人口3万人あまりの規模で維持するのだから、応援したくなるというものだ。
種子島。砂鉄を起点とした製鉄文化を持ったところにポルトガル人が流れ着き、火縄銃を国産化するに至った場所。今では最新ロケットが打ち上げられる場所にもなっており、鉄砲から宇宙を考える場所として訪れてみてはいかがだろうか。
 
1泊2日モデルコース
種子島空港~鉄砲館~浜辺~サンセットライン~宿泊~JAXA~千座の岩屋~トンミー市場~種子島空港